まにょっこ☆まこりん プレストーリー

■02

 私の自室は、礼拝堂を出た廊下のすぐ右手にある八畳ほどの部屋です。
 元々は寄付された本や家具を集めていただけの物置になっていたそうですが、軽く掃除をしてからベッドを設置するだけで、立派に人が住める環境になってくれました。
 お義父さんは「もっと良い部屋を用意してあげたかったのですけど」と、なんだか済まなさそうにしていましたが、私としては充分過ぎました。
 確かに、物が多いのでスペースはあまりありませんが、それがかえって私には快適でした。
 広すぎる場所は逆に落ち着きませんから。
 私はベッドに腰掛けると、枕元に積んでいた本の山に手を伸ばしました。
 植物図鑑。私がここに住むようになって、初めて手に取った本です。
 『紫苑』という名前を授かったとき、それが花の名前だと知らされて、自分の名の由来となったものを知りたい、そう思ったのです。
 何度も開いたページなので、すっかり折れ目が出来てしまい、『紫苑』のページはもう簡単に開くことが出来ます。
 紫苑。学名は、Aster tataricus。
 これを知ったとき、私は思わず溜息をついてしまいました。
 今の名前は、お義父さんからもらった大切な名前で、私自身も気に入っていますが、それだけに複雑な思いもありました。
(過去に犯した罪を忘れさせまいと、神が私に定めた運命のようなものなのでしょうか……)
 この名前は、そんな風にすら思ってしまいます。
 もちろん、私にそれを咎める資格など、ありはしません。
 私は決して許されない罪を犯して、こんなところまで来てしまったのですから。
 そんな私を、優しく受け入れてくれたお義父さんは、なんと素晴らしい方でしょうか。
 今の私には、あのような慈しみはきっとありません。
(こんな私でも、いつかはお義父さんのようになれるのでしょうか?)
 薄汚れてぼろぼろだった私を、そっと撫でてくれたあの大きな手。
 不安そうに視線をあげた私に、そっと微笑んでくれたあの優しさ。
 それを思い出すだけで、私はふと体が熱くなるのを感じてしまいます。
 右手をそっと股間に当てると、そこはふっくら大きくなっていて、とくとくと血の巡りが早くなっているのがわかりました。
 そのまま右手に力を込めようとして――やめました。
 次の瞬間、激しい自己嫌悪が私を襲います。
 ……尊敬するお義父さんを、私を家族として受け入れてくれたお義父さんを、自らを慰める材料にするなんて!
 ベッドに仰向けになって、天井を見上げたまま、大きく息をつきました。
(この欲望を払拭しない限り、私は私を許せそうにないです……まして、きっと天は、私を……)
 毎日繰り返し巡る思考の波に溺れたまま、静かに目を閉じます。
 この不毛な悩みに、答えの出る日は来るのでしょうか。
 私は一体どうすればいいのか――そんなことを思いながら、私の意識は闇に落ちていきました。

     *****

 目が覚めると、すっかり日は落ち、部屋には月明かりだけが差し込んでいました。
 少々疲れていたとはいえ、中途半端に眠ってしまったのは反省です。
(夕食を食べそびれてしまいましたが、多分私がそれだけ深く眠ってしまっていたのでしょうね)
 お義父さんの性格なら、夕食のときに私を起こしに来てくれたはずです。
 私がよく眠っていたので、無理に起こそうとせず、そっとしておいてくれたのでしょう。
 こんな夜に起きていても仕方がないので、また寝直そうかとも思いましたが、どうにも目が冴えてしまいました。
(……また礼拝堂にでも行きましょう)
 そう決めてから、私はいつものように礼拝堂へと足を運びました。
 シンと静まり返った礼拝堂は、とても落ち着いた空気で満ちています。
 月明かりの優しい光が差し込むステンドグラスは、昼間見たときよりも厳かに見えました。
 なんだかんだ言って、ここに来ると落ち着いた気分になってしまうのは、やはりお義父さんの影響もあるのでしょうか。
 引き取られた当初は、礼拝堂に入るにも僅かではない抵抗感があったものですが……。
(私にも純粋な心で祈れるようになる日が、いつか来るのでしょうか……)
 そう思ってみますが、今ここでどれだけ考え込んでみても仕方のないことです。
 わかっているのに考え込んでしまうのは、他にすることもないからでしょうか。
 逆に言えば、お義父さんのおかげで、『悩むこと』が出来るようになった、とプラスに考えることも出来ますけれど。
 そうでなかったら、今の私には何もありませんでしたから。生きる意味さえも。
(そういった辺りも、お義父さんに感謝しなければならないところですね)
 十五分ほど椅子に座ったままぼんやりしていましたが、月明かりを眺めていたらまた微かにまどろんできたので、部屋に戻ることにしました。
(少し喉が乾きましたし、温かいものでも飲んでから寝ることにしましょうか)
 そう思いながら礼拝堂を出て、台所に向かう途中――私は月明かりとは違う光を見つけて、ふと立ち止まりました。
 廊下の先、微かに開いた扉から光が漏れています。
 私の部屋とは真逆の方にある部屋……お義父さんの部屋からです。
(お義父さん、起きているのでしょうか。あの方は規則正しい生活をしていますから、こんな深夜に起きているなんて珍しいですね)
 とはいえ、今はお義父さんに話すことはありませんし、私の悩みについて話題を振られたら、なんと答えていいかわかりません。
 夜遅くに声をかけるのは不躾かとも思い、そっと通り過ぎようとしました……が、
「は……は、ぁ……ぉ……し、おん……」
 そんな声が、私の足を止めました。
 お義父さん、私の名前を……?
 どうしても気になって、つい私はノックを忘れて、僅かに開いた扉を開いてしまいました。
「お義父さん、どうかしまし……え?」
 その瞬間、時が止まったかのような錯覚に陥りました。
 私の目に飛び込んできたのは、修道服をたくし上げ、下半身を丸出しにして己自身を握り締めるお義父さんの姿でした。
「し! 紫苑!? 起きていたのですか!?」
 大慌てで股間を隠すお義父さんですが、既に脳裏にはやる気いっぱいだったお義父さんの性器が焼きついていました。
「なにを……やって……」
 驚きの余り、口にした言葉もどこか空虚に思えます。
 お義父さんは困ったように口ごもりましたが、やがて何かを諦めた風に溜息をついて、
「恥ずべきことですが、自分自身を慰めていました。自らの思いを紛らわすために」
「……私に対する」
 情欲ですか?
 そう聞いてみると、お義父さんは小さく首を振って、私から視線をそらします。
「勝手な言い分ですが、今見たことは忘れてください。私も今後は慎むようにします」
 否定をしないのは、嘘をつきたくないからでしょう。お義父さんらしいです。
 それにしても、なぜこの人は辛そうな顔をしているのでしょうか。
 私はこんなにも――嬉しいと思っているのに。
(この人でも、肉欲をこらえることなど出来はしないのですね)
 それならば、私が欲望をこらえることなど出来るはずもありません。
 知らずのうちに、私の顔には笑みが浮かんでいました。
「慎む必要などありませんよ、お義父さん。私も同じ気持ちですから」
「紫苑? 何を言って……っ!?」
 きょとんとして聞き返してくるお義父さんを、有無を言わさず押し倒しました。
 そして裾をまくりあげて、そのまま無理やり性器を引っ張り出します。
「な、何を!?」
「私、喉が渇いているんです。だからお義父さんのミルクを飲ませて頂こうかと思いまして」
 ちゃんと洗っているのか、握り締めたペニスからはほのかに石鹸の香りがします。
 が、その中に僅かな男臭さも感じて、私はたまらなくなってしまいました。
 我慢が出来なくて、そっと舌をはわせます。
「っく!」
 舌先が触れた瞬間、お義父さんはびくりと腰を震わせました。
 その反応がもっと見たくて、唾液をまぶすように舌を上下に動かしていきます。
「れろ……ぇろっ……んぅ……きもちいいですか、お義父さん……?」
 舐めながら上目遣いに表情を伺うと、お義父さんはぐっと唇を噛んで、必死に快感に耐えているようでした。
 我慢する必要なんてありませんのに、本当に可愛らしい方です。
「や、やめなさい。こんなこと、してはならないことです」
「んちゅ……お義父さんのココは、そうは言っていませんよ?」
 少し舐めただけなのに、お義父さんのペニスは今にもはちきれそうなほど膨れ上がっています。
 普段から自慰をしているわけではないのでしょうか、相当溜まっているような印象です。
「それに、一人でしながら私の名前を呼んでいましたよね? お義父さんも、私としたいんでしょう?」
「そ、そんなことは……。それに、天がお許しになるはずがありません」
「愛による営みならば、天も温情をかけてくださいますよ」
 我ながら、心にもないことを言っているな、と内心笑いが込み上げてきます。
 お義父さんは口ごもりながら、私の顔をちらちらと窺ってきていました。
 どうやら迷っているようですね。
 迷っているということは……もうひと押しすれば、終わりです。
「ふふっ……お義父さん、私はあなたを心から愛してます。お義父さんはどうですか?」
 唇が亀頭に触れるか触れないかのところまで近づけたまま、囁くように言いました。
「もちろん、私も愛していますよ。ですが……」
「私としたくないなら、私を突き飛ばすでもなんでもしてください。でもそうでないなら、答えなくていいです。ただ、僅かな時間でいいです。私のわがままを受け入れてください」
「し、紫苑……」
 積極的に来てくれないのなら、消極的に受け入れてくれるだけでいい。
 楽な条件を突きつけるだけで、心は簡単にそちらへと流れてしまう。
 それはこの私も……そして、私の尊敬するこの方すら、例外ではありませんでした。
 どこか諦念を抱いたような、それでいて何かを期待しているような目をしたまま、お義父さんは無言で顔を背けました。
 思わず、背筋がぞくりと震えました。
 なんなのでしょう、この感覚は。とてつもなく、愉しいです。
「では、失礼して……ぺろ、ぺろ、んむ……れろ、ちゅるっ……」
「くっ、う、うぅ……」
「んちゅ……ちゅっ、ちゅうっ……んじゅる……んはぁ……」
 アイスを舐めるようにゆっくり優しく舐めてから、音を立てて吸い付きます。
 袋の方から亀頭に向かって、スジを伝うように舐め上げただけで、ぴくぴく動くのが可愛らしい。
 はしたないと思っているのか、お義父さんは唇を噛んで、声を出来るだけ出さないように努めているようでした。
 自ら行為を求めているわけではない、ということにしたいようですし、仕方ありませんね。
 私の涎まみれになりながら、艶かしく光るペニスを立てているようでは、何の意味もありませんが……。
(そういう表情を眺めながら、敏感な部分を味わうのも一興です)
 家族同然に過ごしてきた、清貧で品行方正なお義父さんのペニスに口付けている。
 その背徳感がより興奮を加速させていきます。
 辛抱たまらなくなった私は、口を大きく開き、ぷっくり膨れた亀頭をまるごとくわえ込みました。



「あむっ……んっ、んっ……じゅ、じゅぷっ! んっ、じゅるるっ」
「うあっ!? 紫苑、それはあまりに……くう!」
 そんなことを言っていますが、私の口内には明らかに涎以外の味が僅かに感じられました。
 お義父さんの我慢汁……ぬめぬめしていて、ほんの少ししょっぱい。
 興奮しているからか、やけにクセになる味に思えました。
「お義父さん……じゅぷっ、ずっ、ちゅぶぶっ……私の口で、感じてくれているんですね、うれしいです……はむ……んぷ、ちゅる……」
 私がお義父さんを気持ちよくしてあげている。
 どんどん溢れてくる先走ったぬめりが、その証拠です。
「おとぉ、さんっ……はぷ、ん……じゅっぷ、じゅぷ、じゅぼっ! わたしも、からだが熱くなって、きましたぁ……んっ、ちゅ、ちゅっ」
「あ、ああ……っ」
 返事なのか喘ぎ声なのか、どちらともとれる反応。
 もう会話どころではないようですね。
 人は単純でわかりやすくて良いです。
 精神が肉体を凌駕することなど、そうそうありません。
 人が肉欲に抗うことは難しい。だからこそ簡単に、最高に気持ちよくなれる。
「んっ、んぶ、じゅ、じゅる、ん……んはぁ、ん、れろ……ふふっ、気持ちいいですか?」
「は……はい……」
「正直ですね……我慢できなくなったら、そのまま出しちゃってくださいね」
 子供の頭を撫でるように、ペニスをそっとしごきます。
「んっ! ぐ、う!」
 ただそれだけで、お義父さんは全身を硬直させて、荒い呼吸を吐きました。
 両手で包み込むようにマッサージをしつつ、再び唾液を絡めて、たくましい肉棒にしゃぶりつきます。
「んじゅる、じゅっ、んちゅ、ちゅっ! んは、れろ、ちゅ、ちゅぷっ」
「し、紫苑……!」
「あむ、ちゅ、ちゅっ、んぷ……れちゃいまふか? くらふぁい、おとぉふぁんお……はむ、ちゅぶっ、んぶぷっ!」
 手のひらで何かが昇ってくるのを感じて、私は頭の動きを早めて、より強く刺激します。
 ほどなくして、口内で亀頭が一層膨れたかと思うと、
「んぅっ!?」
 弾けるような勢いで熱くたぎったものが叩きつけられました。
 竿が脈動する度に、びゅるびゅると濃い精液が流れ込んできます。
「んぐ……んっく……んっ……んんっ!」
 喉を鳴らして、少しずつお義父さんの汁を飲み下していきます。
 苦いものだと聞いていましたが、ほんの僅かに甘い……気がするのは、相手が愛しい人だからでしょうか。
「んっ、んっ、ぷは……はぁ……これが、お義父さんの……」
 口の端からこぼれてしまった精子を指ですくい取り、口に運びます。
 ゆっくり舌の上で転がしてから、こくんと飲み込みました。
(おいし……)

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